内橋克人氏の訃報
経済評論家の内橋克人氏が亡くなった。数冊の本しか読んでいなかったが、喪失感に襲われた。
内橋氏の訃報には代表作として「匠の時代」が報じられる。残念ながら、その代表作は自分の本棚にない。あるのは「誰のための改革か」、「もうひとつの日本は可能だ」、「悪魔のサイクル」。すべて2000年代前半に書かれたものだ。
2000年代前半。小泉構造改革による規制改革万能論、そして竹中平蔵氏に代表される市場原理主義の強風が吹き荒れた頃。これに対し、冷静で論理的、かつ、物静かな態度で批判を続ける内橋氏の姿が脳裏に焼きついている。
内橋氏は資本の自由化・規制緩和が(労働規制緩和による)非正社員化、(フラット税制改革による)所得の二極化=貧富の差の再拡大、企業の淘汰・合併、外資化を産んだとした。全くそのとおりだろう。また、金が金を産むバブルの発生においては、超金持ちが出現するが、失業率は低下しないことを指摘し、その泡が鎮まる時、経済事件の発生や政治の腐敗が進むこと、やがて地域・地方は荒廃し、共同体が破壊されることを指摘した。これも全くそのとおりになっている。
時を経て、地方都市の商店は失われ、庶民の暮らし、地方零細中小企業の暮らしは巨大資本とその系列業者に牛耳られることになった。
内橋氏は単に立場の違う政策を批判する経済評論家ではなかった。冷静な分析、現場取材、弱者への温かい眼差し。真のジャーナリストだった。
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