無視の周辺
会社での会話。 「先週、近所のショッピングセンターに向かう歩道で、リタイアした先輩とすれ違った。一瞬、目が合ったのに、先輩は無視して通り過ぎた。若い頃は二人で酒を飲む仲だったのに」。
この半ば愚痴や嘆きのような感情を自分なら言葉にしないだろう。決して人には話さない。なぜなら、それが「無視された」のではなく、自らが「無視した」可能性がゼロではないという心の迷いがあるからだ。厳密に言えば「互いに無視した」が正解ではないか。
ある程度の組織で、ある程度の地位にある人(あった人)の人間関係とは、会社関係であり仕事関係であることを知っている。だからこそ、多くの人は会社にしがみつき、地位にしがみつく。
人には事情がある。境遇があり、心の機微がある。同じ時間に同じ場所にいることがあるが、実はそれは「たまたま」なのだと思う。同じ会社の同じ部署にいたことと、同じショッピングセンターに向かう道ですれ違ったことの偶然には大きな差はないように思う。
お互いがリタイアした後に、また二人で飲みに行けばいい。その時にようやく、二人の関係が人間関係に昇華する(たぶん)。
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