“故人情報”という遺品
1日に亡くなったK社長、1年前の雛祭りに亡くなったIさんの電話番号やメールアドレスが携帯電話に残っている。これから先ずっと、電話がかかってくることはない。メールも同様だ。
世の中には「デジタル遺品」が溢れている。「デジタル遺産問題」として取り上げられることが多いが、遺品と遺産ではかなり違う。経済的・財産的価値を持つデジタル遺産は相続財産になり、遺産分割の対象にもなる。相続人への承継問題など、デジタル遺産を持つ人は相応の対策を講じる必要があるが、その遺産問題について記す知識もなく、ここではその必要もない。
一方、デジタル遺品は人ごとではない。パソコンやスマホなどの中に記録されている写真、ダウンロードされた書籍や音楽、インターネット上のアカウント、ブログやSNSの履歴、電子マネーなどは“死者のプライバシー”そのものと言える。生者であろうと死者であろうと、プライバシーであることに変わりはない。
現代では故人の個人情報、つまり“故人情報”が遺品として残される。在りし日のK社長やIさんの姿を思うと、その記号を消すことは難しい。それを単に無機質な数字とアルファベットの羅列としては捉えられないからだ。やがては自分も所有する電子記録機器に遺品を残す。そして、現世で交流のあった人々の機器にも遺品を残すことになる。電子機器やクラウドに格納された情報は“焼却(消却)されない棺桶”のようなものか。
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