2017.09 独身税に代わるもの
石川県の地方紙・北國新聞が伝えたネットニュースが波紋を広げた。
【要約】 8月下旬、石川県某市で子育て中の女性がつくる「某市ママ課」と財務省主計官(元石川県総務部長)の意見交換会が開催された。ママ課メンバーの「結婚して子どもを育てると生活水準が下がる。独身者に負担をお願いできないか」という質問に対し、主計官は「独身税の議論はあるが、進んでいない」と述べた。このほか、健康な高齢者が多い自治体で税負担を下げる、たばこ税増税などの提案があった。
ありがちな議論。ネット上には主に独身者からの反対意見が溢れた。独身であるか否かで税負担を増減するというのはあまりに短絡的で乱暴だ。しかし、反対意見が批判のみに終始していることに辟易してしまった。
ママ課メンバーの発言は独り善がりだろうか?ママ代表は、少なからず、子育て支援政策への不満を持っているということで、これについて独身者が揶揄すべきではない。ママ代表は「財源があれば子育て支援策が充実する」と考えている。それはあながち的はずれとは言えない。
独身であるか否かで税負担を増減するというのは、やはり多少の感情(主観)が入ってしまっている。客観的なものさしで税負担を増減すればいい。所得や財産があるかどうかに着目して税金を課す方が理にかなっている。
日本が先送りしている課題、世の中を劇的に変える仕組みが3つあると思っている。
それは、 遷都(首都移転) 資産課税 宗教法人課税 の3つだ。
「所得に応じて税負担する」という仕組みは、現在も累進課税制度が導入されている。「所得 = フロー」は、それまでの自己努力の面があり、累進度の更なる強化は慎重に検討されるべきだと思う。一方で、「財産 = ストック」に対する課税は行われていない。よって、“金持ちの子は、ずっと金持ち。貧乏人の子は、ずっと貧乏”という社会の仕組みが出来上がってしまっている(もちろん例外はある)。
ストックでも、1千万とか1億円とか「せっかく節約して貯金したのに」、「働いて働いてコツコツと貯めたのに」というレベルは除外する。資産10億円、100億円以上の超富裕層の資産に課税する仕組みは考えられていい。少なくとも独身税よりも、ずっと理にかなっている。
「資産家や富裕層の子は、ある程度、親の恩恵に与(あずか)るが、孫世代では一般家庭の水準に戻る」、そんな仕組み。遺産100億円なら、税率80%で納税額は80億円。次の世代は20億円を税率50%で納税額は10億円。孫世代でグッと庶民に近づいて来る。それでもまだまだ富裕層だ。それらの納税者は一生、所得税を免除してもいい。
遷都と宗教法人課税についても、根本的な考え方は同じ。“既得権を打破すること”。既得権の甘い汁が富裕層に流れ込む構造が変わらないから、庶民のママが独身税などと発言してしまう。ママにとって楽に見え、時には敵に見えている独身者は、社会的には同じ階層にいる弱者なのに。そのことに気づかないのは、とても哀れなこと。
ママ課メンバーが「資産税の導入や宗教法人に課税できないか」と質問したら、財務省主計官はどんな回答をしただろう。そして、それを新聞はどう伝え、ネット民はどんな反応を示しただろう。
【追記】平成28年度の企業の「内部留保」が406兆円を超え、過去最高になった。前年度比28兆円増加した。一方、企業の「労働分配率」は5年前との比較で72.6%から67.5%に低下した。利益や内部留保額の伸びと比較して、賃金の伸び率が低いことを改めて示す結果になった。消費税が5%から8%に引き上げられた際、法人税率は引き下げられている。