酒のこと
酒というのは不思議なもの。しばしば、人生のシーンに登場する。宗教や儀式にも欠かせない。人を堕落させることがあり、神聖なものでもある。酒は仲良くしたり、寄せつけなかったりする。飲まれるフリをして、呑み込んでしまうこともある。心と体に影響を及ぼす。
「酒が強い」という言葉がある。多くの場合、酒をたくさん飲めることを指す。もうひとつ、酒に飲まれないことも強さだと言われる。前者は酒というアルコール飲料との親和性、耐性など身体的能力の尺度をいい、後者は酒席や酒宴での精神的能力の尺度をいうのではないか。
精神的能力については「下戸の人が一番強い」。端から酒宴に近づかないというのは最強のカードだろう。常に不戦勝。しかし、酒に負けることは確かにないが、酒との距離は縮まることがない。属する集団内でのコミニュケーションを欠くことなど「負(ふ)」となる可能性はある。
酒の飲み方には人格が出る。他人の例を持ち出すまでもなく、自分がいい例だ。自分は酒で記憶をなくしたことがない。その理由はわかっている。理由は「臆病だから」。二日酔い程度では済まない、その先にある未知の領域に飛び込む勇気がない。もうひとつは、自分自身を統制できない自分を、誰かに見られたくない。自分を晒したくない、さらけ出したくない。一方で、二日酔いで仕事に影響を及ぼしたり、寝込んで時間を無駄にすることの無意味さもわかっている。
次は他人の例。“彼”は必ずといっていいほど、乾杯の挨拶に横やりを入れることで酒席を盛り上げたりする。一般的な宴席は90分か、せいぜい長くても120分だ。その時間が過ぎる時、彼は必ずといっていいくらい、壁にもたれ、首を折って、寝てしまっている。それが彼の定番の飲み方だ。
彼は「自分自身を統制できない自分を、誰かに見られたくない」とか、「自分を晒したくない、さらけ出したくない」という“臆病心”の欠片も見せない。彼が首を曲げて寝ている姿を見る時、自分には彼が闇の中でポツンと寝ているように見える。自分は見せられないが、彼は見せられる。それは性格だろうか、能力だろうか。
酒は不思議な力を持っている。酒はあまりにも広く、あまりにも深く、あまりにも強く、あまりにも重い。「得体が知れない」。得体が知れないものとは対等な関係でいるべきだと思う。美しく、きれいに飲む方が、相手にも酒にも失礼がない。12月は酒とのつきあいが増える時期。
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