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2017年11月 6日 (月)

藤沢周平辞典

Img_20171024_131820 藤沢周平氏没後20年。没後10年の年に刊行された「藤沢周平辞典」(勉誠出版。以下、辞典)を買い求めた。この書物の存在は知っていても、多数ある氏の作品以外の本を買うのは気恥ずかしい思いがあった。新刊で4千円以上することも購入をためらう理由だったが、インターネットで程度の良い古本を見つけたので購入した。およそ千円だった。

 帯には「藤沢周平のすべてを知る大事典。275の代表作に、関連人物、雑誌、キーワードなど57の一般項目を加えて解説。ブックガイドとしても最適な、ファン・研究者必携の一冊。日本人に愛され続ける時代小説の大家を知りつくす」とある。辞典というだけあって、69人の執筆者による、500ページに上る大作。内容は、「第一部 作品篇」、「第二部 一般項目篇」、「第三部 付録 書誌・年譜」という構成になっている。

 辞典だから50音順はあたりまえなのだが、読者は辞典のように引くのだろうか。自分なら作品や作風のつながり、氏の人生における出来事と作品の関係性を推し量る上でも、年代順の方が楽しめたかもしれない。誤植も目についた。

 昭和30年代後半から40年代の高度成長期に、彼は乳飲み子を残して亡くなった妻に代わって、幼い娘を育てた。右肺と肋骨5本のない体で、彼が懸命に支えていたのは、何の贅沢もない、ささやかな暮らしだった。当時のサラリーマンが個人の生活事情を優先できたはずがない。彼が懸賞小説や公募小説に応募し続けたのは、そんな“苦界”の中で、光を、救済を、自分が何者であるかという誇りを求める姿だったように思う。藤沢氏の人生こそが、市井(しせい)の人々の日常に平然と存在する機微や哀歓に満ちていたことを知る。

 没後10年経過した時期に刊行されたものであるため、親族や関係者が藤沢氏の死後に記した本についても記載されている。さらにその後10年が経過しても、いわば“藤沢本”の出版はやむことがない。加えて映像化された作品も相当数に上っており、今なお絶えることがない。藤沢氏は死して尚、歴史を刻んでいる。

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