死者に宛てた恋文
玄関の戸を開けると、それが開くのを待っていたかのように、落ち葉がヒュッと舞って吹き込んで来る。季節は晩秋から初冬への移り変わっている。
鶴岡旅行は1泊2日でしかなかったのに、もう10日も藤沢周平氏に関するあれこれを記している。久しぶりに鶴岡へ出掛けたのは、「文豪ファミリア」というテレビ番組をみたことがきっかけだった。番組は藤沢周平氏の家庭を一人娘の視点からドラマ風に仕立てたもの。その中で、藤沢氏が最初の妻を亡くした頃、知人に宛てた手紙の一部が朗読された。
“人生には思いもかけないことがあるものです。予想も出来ないところから不意を突かれ、徹頭徹尾叩かれて、負けて、まだ茫然とそのあとを眺めているところです。西方浄土までは、十万億度の長い道を歩いていくのだそうです。方向音痴で、何かにつけて僕に聞かないと、自分で判断できなかったあれ(妻)に、そんな長い旅ができるのだろうか。そんな馬鹿げた考えひとつにも、いまだに心がきりきり痛むのです。僕も、何一つ知ることが出来ないあの世という別世界に、一人でやるのが可哀そうで、一緒に行ってやるべきかということを真剣に考えました。子供がいなかったら、多分僕はそうしたでしょう。それが、少しも無理ではなく、たやすいように思われたほど、あれが亡くなる前後、僕は死というものの、すぐ傍まで行き、頻(しき)りに向こうの世界を覗いていたような気がします”
この手紙は他者(知人)に宛てたものでありながら、まるで恋文のようだ。それは「Love letter」 と訳される恋文ではなく、死者に宛てた“恋しい手紙”だ。
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