100分で名著 「全体主義の起源」/ミルグラム実験
NHK、Eテレの「100分で名著」 9月はハンナ・アーレントの「全体主義の起源」。ハンナ・アーレント(1906-1975)はナチスによる迫害を逃れ、アメリカに亡命したユダヤ系ドイツ人の女性政治哲学者。
全体主義の起源の1つになった「反ユダヤ主義」。共通の敵を見出し排除することで自らの同質性・求心性を高める異分子排除のメカニズムは、民衆の支持を獲得する政治的な道具として利用され、先鋭化していった。それはやがて、当然のように人種主義と民族ナショナリズムに収斂した。第一次世界大戦の賠償金支払に困窮する国家、インフレ、失業といった社会不安(失業率28%、不完全就労率42%)に苦しむ大衆に対し、ナチスが台頭した。ナチスの運動は次第に組織化され、自発的に同調するよう仕向けられた社会が急速に形成されていく。それがやがてホロコーストに繋がっていった。
数百万のユダヤ人を計画的・組織的に虐殺し続けた「ユダヤ人移送計画」の責任者 アドルフ・アイヒマンは、与えられた命令を淡々とこなす小役人だった。自分の行いの是非について全く考慮しない徹底した無思想性。その事実は“誰もがアイヒマンになりうる”可能性を持っているという警鐘にたどり着く。
アイヒマンテストという社会心理学を代表する実験(正式名:ミルグラム実験)は、閉鎖的な状況において権威者の指示に従う人間の心理状況を実証するもの。先生役の被験者は15ボルトから最大450ボルトまでの電気ショックを与えるボタンの前に座らされ、別の部屋にいる生徒役に対して問題を出す。生徒役は台本通りにわざと間違え、徐々に電圧が上がるスイッチを教師役に押させていく。電圧が高くなってくると、あらかじめ録音してあった生徒役の絶叫が響き渡る。ここで被験者が躊躇すると、白衣を着た男が「続行して下さい」と実験を促す。この実験で被験者が最後までボタンを押す確率は65%~85%に達した。権威の下では多くの人がその権威や権力に服従する。
ズレない ブレない ムレない
昨日記した「サラリーマン生活の信条」は、サラリーマンの処世術としては通用しない。だが、自分には「電気ショックのボタンを押さない」、自信のようなもの、誇りのようなものがある。
「全体主義の起原」は、今年1月に全米でベストセラーを記録したという。トランプ大統領の排外主義的な政策に反発した市民たちが買い求めたといわれる。自由の国・アメリカ市民の底力を感じる。