泥船を降りる
「ワンマン社長の判断」と「組織の判断」は違わなければならない。これはサラリーマン生活を通じての持論のひとつ。北朝鮮と日本の判断が違うように。
惑星直列とは、単純に「複数の惑星が直列状に並ぶこと」だと思っていた。定義を調べると「星が地球から見てほぼ同時期に、外惑星(火星・木星・土星・冥王星・海王星)は「衝(しょう)」、内惑星(水星・金星)は「合(ごう)」の付近に位置する状態を言う」とある。組織で負の惑星直列が起きた場合は、とても危険だ。
ある日、入社3年目で“ゆとり世代の典型”と揶揄されていた 「彼」が出勤しなかった。彼は連日、上司から執拗な叱責を受けていた。上司は店頭に客がいても構うことなく怒鳴ることを止めなかった。彼は能力のない人物ではなかった。TOEICで高得点の成績をとるなど英語が得意で、秀でた能力を持っていた。得手・不得手、あるいは仕事の基礎教育の問題であることは明らかだった。書類整理やこれまで積み重なったミスを取り繕うことだけに追われている現状を、把握し、対処するのは、上司のマネジメント能力の問題だ。
出勤しなかった彼の自宅に電話すると、母親は「いつも通りの時間に出勤した」と答えた。彼は母親に自分が置かれた状況を話していただろうか。そういったことを一切知らなかったとしたら、母親の心痛は計り知れないほどだったろう。彼の携帯は留守番電話のままだった。そして、それ以上、彼の捜索は行われなかった。本部への報告もされなかった。彼の行方がわからないまま昼休みになった。バスが発着する駅周辺を歩いてみた。彼がベンチに座り込んでいるかもしれないからだ。駅に向かう途中、上司とすれ違った。一瞬、上司も自分と同じように考えたのかと想像したが、思い直した。上位者に「捜したことを報告するためでしかない」からだと、日頃の言動から簡単に察しがついた。
心配は杞憂に終わった。14時頃、彼から連絡があった。家を出てバスに乗ったが、会社には向かうことはできなかったという。まるで重石をつけながら、渦潮の中を泳いでいるようだったろう。
翌朝、出勤した彼は、無断遅刻・欠勤となったことについて、激しい叱責を受けた。「社会人としてあるまじき行為。就業規則違反である」と。保身を優先させた者たちは、彼を追いつめ、一時的に所在不明になったこと、そして、組織対応を怠ったことについて、「管理者としてあるまじき行為」とは叱責されない。組織の判断は3名の上司が行った。とりわけ最上位者の罪は重い。“最悪の事態”も想定されたはずだ。
組織で負の惑星直列が起きた場合は危険だ。個人が警戒しなければならない。自浄作用を期待してはいけない。保身や出世欲に際限はないからだ。
Two years have passed since I got off the mud ship. Today is that anniversary.
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