母の断捨離
先日、74歳の母の断捨離に駆り出された。実際は断捨離とまではいかなかったが、不要な衣類などを処分した。
インターネットの性格診断で「あなたは合理的で効率的、断捨離が得意。本当に必要なものしか部屋に置かず、家の中は美しく整えられています…」と続いた。
「断捨離が得意」。そうかもしれない。進学と転勤等で、19歳・21歳・23歳・27歳・31歳・37歳・41歳・44歳・46歳と引っ越しを9回経験した。引っ越しの度に選別される所有物の多くは、存在価値があるにも関わらず、次の場所で始まる新しい暮らしのに不必要と判断され、廃棄される。所有すれば身軽さを欠くことを経験してきたから、いっそ所有しないこと常としてきた。
片づけられない人の多くに「引っ越し経験がない人が多い」というのは、かなり当てはまると思う。引っ越し経験がない人は、捨てる意味がわかっていない。次の場所で入れ物(部屋の間取り・収納スペース等)が大きくなっていくとは限らない。
母親の場合、3つの癖が影響していると思った。①とっておく癖 ②入れ物を増やす癖 ③管理しない癖
①「とっておく癖(いいモノだから・高かったから・まだ使えるから・いつか使うから)」に対しては、「その時はやって来ない」という現実を理解してもらうことが重要になる。あって良かった経験はありましたか?反対に、無くて困った経験はありましたか?と聞く。
②「入れ物を増やす癖」。入れ物に収めると、一見、整理できたように思ってしまう。しかし、それは片づけの先送りでしかなく、片づけの勘違いに過ぎない。断捨離とは読んで字のごとく。断つこと・捨てること・離れること。詰めて、寄せて、重ねただけでは断捨離にはならない。思い切ってクローゼットを無くす(減らす)、タンスや衣装ケースを捨てる(減らす)、スチール棚や100均のカゴなども捨てる。「入れ物に入った入れ物が入れ物に入っている」という状況をやめるだけで、スペースが確保できる。
③「管理しない癖」。例えばレインウェアが3つ出てきたりする。これは雨天時など使用場面が限られるため、管理していない状況ではどこにしまったか忘れてしまいがちになる。その結果、購入を繰り返して数が増える。未開封の機能性下着が数枚。これは買ったまま保管したもの。ガムテープが5つ以上埋まっていた。食品では「からし」が5本、醤油やサラダ油、インスタントコーヒーなどが多数。これらは安売りで買ったというが、一般家庭でからしを1年に何本消費するだろうか。貧乏性の人はこういった貯める購入行動が染みついている。
整理作業を進めていると、やはり母に無断で廃棄するわけには行かず、ひとつひとつ確認を取ることになる。母の言い分の中で「確かに一理ある」と思う点がある。それは 「モノに対して思い出、思い入れがあること」。モノに魂を入れてしまう傾向が強い人は、なかなか捨てられない。モノとココロがくっついているために、なかなか剥がせない。
40年前、まだ電子レンジが出始めの頃、家には“ナショナル製”の電子レンジがあった。やむを得ず、必要に迫られて購入した高価な家電。その初期型電子レンジが、つい4~5年前まで家にあった。レンジ庫内の灯りが切れていたが、最後まで現役だった。それは母だけでなく、家族にとって思い入れのある家電だった。
母が衣類を捨てられない理由も、当時のモノに思い入れがあるからだ。日本製と刺繍されたタグのついたウール100%のコート。シルクのガウン。入学式や卒業式で着用したスーツ。これらは決して楽ではない家計をやり繰りして購入したもの。思い入れがあるのは当然だ。その想いは大切にすべきだと思う。母親は引っ越しなどしないし、女性はいつになってもオシャレをしたいからだ(嫁入り前ではなくとも)。
しかし、断捨離を覚悟した以上、それらを吟味することが必要になる。ゴミ袋に詰める際に話を聞くことは、イソップ寓話「北風と太陽」に似ている。北風が上着を吹き飛ばそうとしても、旅人は上着をしっかり押さえてしまい、服を脱がせることができない。太陽が照りつけると、旅人はその暑さに耐え切れず、自ら上着を脱いでしまう。