お盆の匂い
お盆になると墓参りにはバスに乗って出掛けた。警察署前から乗り、見附駅を経由して今町1丁目のバス停で降りる。刈谷田川を越える今町大橋を渡り、橋のたもとにある妙栄寺まで歩く。帰りは星野医院の玄関に座って、アイスクリームをなめる。父が自動車の免許を取得するまで、それが毎年続いた。
建て直す前の実家は築100年を超えていた。今年81歳の父が「自分が幼い頃、すでに古い家だった」というくらいだから、築130年くらいだったのかもしれない。
仏壇の前には1年に1度、この時だけ使われる仏具が並んだ。うるし塗りのお膳や白い小皿。ナスやキュウリでつくった馬。それが精霊馬(しょうりょううま)であると、だいぶ後に知ったが、「ご先祖様がこれに乗って来るんだよ」と聞かされれば、すべて納得したものだった。
遠くでセミの声。ロウソクと線香の匂い。供えられた桃やブドウの甘い香り。床の間にはのし紙に包まれたお中元。すだれを通して入る生暖かい風。窓をつたう朝顔。実をつけ始めたイチジク。小さな庭の古井戸にはスイカが吊されていた。
お盆独特の雰囲気の中で、「お盆の匂い」がした。
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